最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)694号 判決
本籍並びに住居
米子市岩倉町一〇〇番地
無職
川島貞次郎
明治四一年七月一八日生
本籍並びに住居
米子市朝日町六二番地
興行請負業
小谷肇
明治三三年七月五日生
本籍
大阪府南河内郡西浦町大字西浦二三二〇番地
住居
大阪府南河内郡西浦町大字西浦
興行請負業
泉昌男こと
阪倉慧二
明治四一年七月二四日生
右被告人川島貞次郎に対する業務上横領、被告人小谷肇、同阪倉慧二に対する各横領被告事件について昭和二五年一月九日広島高等裁判所松江支部の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次の通り判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人上原隼三上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。
弁護人上原隼三上告趣意について。
論旨は被告人川島は自己の名義でなく、判示銀行名義で判示金員を貸付けたのであるから背任罪を以て問擬すべきであるに拘わらず横領罪として処罰した原判決は大審院判例(昭和十年(れ)第五〇二号同年七月三日刑事第三部判決)に反すると主張する。記録に徴するに第一審判決並に第二審判決は何れも被告人川島が銀行名義を以て判示金員を貸付けた事実は認定していない。ただ原判決は銀行の出納係主任が他人と共謀して業務上保管にかかる金員をほしいままに他人の営業資金に流用て費消したときは自己の物として不法に領得する意思を実現したものであるからたとい右の流用が銀行名義を以てする貸付しの形式をとつても出納係主任に金員貸付の権限が全くない以上右の行為は業務上横領罪を構成し背任罪に問擬すべきものでないと判示したことは所論の通りである。按ずるに他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物について権限を有しないに拘わらず所有者でなければできないやうな処分をする意思を以て自己の保管にかかる物を処分すれば横領罪は成立することは当裁判所判例の示すところである(昭和二三年(れ)第一四一二号同二四年三月八日第三小法廷判決)そして原判決は右当裁判所判例と同一趣旨であることは判文上明白であるから論旨は理由がない。
よつて刑訴四〇八条により主文の通り判決する。
以上は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官穂積重遠は差し支えの為署名押印することができない。 裁判長裁判官 長谷川太一郎)